出版不況はなぜ続く?出版社の倒産増加から考える紙の本と本屋のこれから

出版社の倒産が増えています。2026年1~7月の出版業の倒産は21件となり、前年同期から大幅に増加しました。電子書籍が普及し、紙の出版市場が縮小していることは以前から知られていますが、出版社の経営が苦しくなっている理由は、それだけではないようです。

私も電子書籍を利用する一方、紙の本は地元の本屋でも買っています。出版不況が続けば、紙の本や身近な本屋はこれからどうなるのでしょうか。出版社の利益が減っている理由や出版流通の仕組み、出版社と書店による直取引の動きから考えてみます。

  • 出版不況はなぜ続いているのか
  • 電子書籍が増えたから紙の本が売れなくなったのか
  • 本屋はなぜ減っているのか
  • 出版社と書店の直取引で出版不況は変わるのか
  • 出版不況でも紙の本や本屋はなくならないのか
紙の本が並ぶ風景を支えるのは出版社・取次・書店をつなぐ流通の仕組みです 出版不況のなかそのあり方が見直されています【わかりやすい経済ニュース】
紙の本が並ぶ風景を支えるのは出版社・取次・書店をつなぐ流通の仕組みです 出版不況のなかそのあり方が見直されています
2026年9月8日

出版不況はなぜ続いているのか

出版社の倒産が2026年に急増している

出版業界の厳しさを示す数字が出ています。東京商工リサーチによると、2026年1~7月の出版業の倒産は前年同期から大きく増えました。

2026年1~7月の出版業の倒産

倒産件数:21件

前年同期比:90.9%増

2019年同期以来、7年ぶりに20件を超える

東京商工リサーチの調査では、現在のペースが続いた場合、年間で2011年の41件を上回る可能性があるとしています。

出版社の倒産増加を見ると、本が売れなくなったことが原因のように見えます。しかし、出版社の業績には別の変化も表れています。

本が売れないだけではない、出版社の利益が減っている

東京商工リサーチが、2025年度を最新期として5期連続で売上高と利益を比較できる出版社648社を調べると、売上高と利益の動きには大きな違いがありました。

項目 状況
売上高 1兆3,000億円超でおおむね横ばい
最終利益 2021年度1,127億円→2025年度655億円
利益の変化 4期で41.8%減

売上高が大きく減っていないにもかかわらず利益が落ち込んでいるため、本の販売量だけでなく、本を作り、流通させるためのコストを見る必要があります。

紙代・印刷・製本・物流費の上昇も経営を圧迫する

紙の本には、原稿を作る費用以外にも紙、印刷、製本、保管、配送など多くの費用がかかります。

東京商工リサーチの取材では、神保町周辺の出版社について、紙の価格や製本の外注費の高騰などが経営を圧迫しているとの声が紹介されています。取次側でも、燃料費やドライバーなどの人件費上昇による輸送費の増加が課題になっています。

出版社が販売価格を上げれば利益を確保しやすくなりますが、本の価格を大幅に上げれば読者が購入を控える可能性もあります。価格を維持すれば、コスト上昇によって利益が圧迫されやすくなります。

電子書籍が増えたから紙の本が売れなくなったのか

紙の出版市場は1兆円を割ったが、書籍は2025年に微増

出版不況の話になると、電子書籍が増えたため紙の本が売れなくなった、という説明をよく見かけます。長期的に紙の出版市場が縮小していることは事実ですが、直近の数字はもう少し複雑です。

全国出版協会・出版科学研究所が公表した2025年の出版市場を見ると、紙全体の縮小と紙の書籍の動きには違いがあります。

2025年の出版市場を見るポイント

■紙+電子の出版市場
1兆5,462億円で前年比1.6%減
■紙の出版物
市場規模は1兆円を下回った
■紙の書籍
販売金額5,939億円で4年ぶりにわずかに増加

紙の出版物には書籍だけでなく雑誌も含まれます。紙全体の市場が縮小しているからといって、すべての紙の本が同じ動きをしているわけではありません。

書籍、雑誌、コミックでは市場の動きが異なるため、分けて見る必要があります。

電子書籍も伸び続けるとは限らない

電子出版市場は2014年以降、大きく成長してきました。なかでも市場を牽引してきたのが電子コミックです。

一方、電子書籍は2022年に初めて前年を下回るなど伸び悩みもみられます。2025年の電子コミック市場も前年より増えていますが、伸び率は鈍化しました。

紙から電子へ一直線に置き換わっているというより、ジャンルや読み方によって選ばれる媒体が分かれてきたと考えたほうが実態に近そうです。

本好きの私でも3割ほどは電子書籍になった

私自身、本を読むことが好きですが、現在購入している本の3割ほどは電子書籍です。

電子書籍を使う理由は、保管場所を取らず、読みたいときに購入でき、何冊も持ち歩く必要がないからです。その一方で、紙で手元に置いておきたい本や、ページを行き来しながら読みたい本は紙を選ぶことがあります。

紙から電子へ完全に移行したわけではなく、目的によって両方を使い分けています。

本屋はなぜ減っているのか

全国の書店数は初めて1万店を下回った

出版不況は出版社だけの問題ではありません。読者にとって身近な変化が、本屋の減少です。

日本出版インフラセンター書店マスタ管理センターの「年度別 書店数推移」によると、2025年度末の登録書店数は、同センターが集計を開始した1994年度以降で初めて1万店を下回りました。

年度 登録書店数
1998年度 24,237店
2024年度 10,417店
2025年度 9,993店

2025年度には102店が新たに登録された一方、499店が閉店しています。

書店が減る背景には、デジタル化やネット書店の拡大、出版市場の縮小、物流費や人件費などのコスト上昇があります。

出版社・取次・書店をつなぐ従来の流通にもコストがかかる

日本の出版流通では、出版社が発行した本を取次が書店へ届ける仕組みが広く使われています。

一般的な出版流通の流れ

出版社 → 取次 → 書店 → 読者

取次は、多数の出版社から本を集め、多数の書店へ配送する役割を担っています。全国へ多様な本を届けるうえで重要な仕組みですが、市場が縮小し、物流費が上昇するなかでは従来と同じ方法を維持する負担も大きくなります。

日本の出版流通では、書店で売れなかった本を出版社側へ返品できる仕組みも広く使われてきました。書店は売れるか分からない本も店頭に並べやすくなりますが、返品される本の配送や仕分けにも費用がかかります。

出版科学研究所によると、2025年の紙の書籍の返品率は31.9%でした。2008~2009年には40%を超えていたため改善は進んでいますが、現在も流通コストを考えるうえで無視できない割合です。

本屋がなくなると何が失われるのか

欲しい本が決まっている場合、ネット通販なら検索して注文できます。一方、本屋には、買う予定のなかった本と出会えるという実店舗ならではの役割があります。

棚を眺めているうちにタイトルが気になり、手に取って初めて存在を知る本もあります。専門書や小規模出版社の本など、検索しなければ出会いにくい本を知るきっかけにもなります。

地域から本屋がなくなれば、実際の本を手に取って選び、思いがけない一冊と出会う場所も減っていきます。出版不況は企業の経営だけでなく、読者と本の接点にも関わる問題です。

出版社と書店の直取引で出版不況は変わるのか

出版社と書店が取次を介さず取引する動き

こうした状況を変えようと、出版社と書店の取引方法を見直す動きも始まっています。その一つが、従来の取次を経由した仕入れとは異なる直取引です。

直取引の拡大を進めているのが、紀伊國屋書店、カルチュア・コンビニエンス・クラブ、日本出版販売の共同出資で2023年10月に設立されたブックセラーズ&カンパニーです。

ブックセラーズ&カンパニーは、仕入れや物流、データ活用などの仕組みを整え、出版社と書店が直取引を進めやすい環境づくりを進めています。

返品率20%・粗利率30%を目指す

2026年6月、ブックセラーズ&カンパニーと参画書店15社は、書籍流通の合理化に向けた共同声明を発表しました。

2028年3月までに目指す主な数値は次の3つです。

直取引で目指す主な目標

  • 契約出版社の既存店売上を2024年度から10%以上成長させる
  • 参加書店の平均返品率を20%に削減する
  • 書籍仕入れの5割を直仕入れに切り替え、書籍販売の粗利率30%を実現する

これらの目標からは、直取引を仕入れ方法の変更だけでなく、返品削減と書店の収益改善まで含む流通改革として進めようとしていることが分かります。

直取引にもメリットと課題がある

直取引によって期待される効果がある一方、出版社や書店が担う業務が増えるという課題もあります。

期待されること 返品や物流の効率化、書店の利益率改善、販売データを生かした仕入れ
課題 受発注、請求・精算、物流、在庫管理などの業務負担

ここで気になるのが、効率化と本の多様性を両立できるのかという点です。

売上データを活用して仕入れの精度を高めることには合理性があります。しかし、売れる可能性が高い本を優先する動きが強くなれば、販売部数の少ない専門書や、小規模出版社が作るニッチな本を店頭に置く判断が難しくなる可能性もあります。

私は、出版流通改革では収益性の改善とともに、多様な本を読者へ届けることも重要だと考えます。

売れ筋の本を効率よく届けようとすれば、販売実績の乏しい専門書やニッチな本は仕入れにくくなる可能性があります。逆に、多様な本を幅広く店頭に並べれば、在庫や返品の負担は増えやすくなります。

出版流通の難しさは、この効率性と多様性をどう両立させるかにあります。直取引が広がっても、この課題そのものがなくなるわけではありません。

出版不況でも紙の本や本屋はなくならないのか

出版業界は本を作るだけでなく、届け方を変える段階へ

ここまで見てきたように、出版業界が抱える課題は、本の需要だけでなく、製造コスト、物流、返品、書店の収益性など複数の部分にまたがっています。

直取引も、こうした問題に対応するための選択肢の一つです。取次を使う従来の流通とどちらか一方に統一するのではなく、本の種類、出版社や書店の規模、販売方法に応じて複数の流通方法を使い分けていくことも考えられます。

出版不況への対応は、本をどう作るかだけでなく、どのようなコストで、どのような店へ届けるのかという仕組みまで見直す段階に入っています。

私が地元の本屋でも本を買う理由

電子書籍やネット通販も利用しますが、紙の本を買うときは地元の本屋も利用しています。本屋がなくなると、本を手に取り、思いがけない一冊と出会える場所もなくなってしまうからです。

業界では流通やコスト構造の見直しが進められています。その一方で、読者としてできることの一つは、残ってほしいと思う店を実際に利用することだと思います。

電子書籍、ネット通販、街の本屋。それぞれの便利さや役割を生かしながら、読みたい本に出会える選択肢がこれからも残ってほしいと思います。