教員の奨学金免除を検討へ 条件・対象は?なぜ教員だけなのか

教員になった人の大学時代の奨学金を、勤務年数に応じて全額または一部免除する制度を文部科学省が検討していると報じられました。教員の奨学金免除と聞くと、「いつから始まるのか」「現在働いている教員も対象になるのか」とともに、「人手不足はほかの業界も同じなのに、なぜ教員なのか」と疑問を感じる人もいるでしょう。現在の教員不足は人口減少だけでは説明できず、採用拡大や臨時講師の減少、特別支援学級の増加など複数の要因が重なっています。新しい奨学金免除制度について現在分かっていることを整理し、教員不足の背景や他職種との違いまで見ていきます。

  • 教員の奨学金免除はいつから?現時点では検討段階
  • なぜ教員だけ?学部段階で約30年ぶりに制度復活を検討する背景
  • 教員不足の原因は人口減少だけではない
  • 他の人手不足職種と比べても教員だけが優遇されるのか
  • 奨学金免除で教員不足はどこまで改善するのか
ガラス張りの建物の前で資料を抱える若い女性。教員の奨学金免除は、教職を目指す人の負担軽減と教員不足対策の両面から検討されています。
教員の奨学金免除は教職を目指す人の負担軽減と教員不足対策の両面から検討されています
2026年9月17日

教員の奨学金免除はいつから?現時点では検討段階

最初に確認しておきたいのは、教員になった人の大学時代の奨学金を免除する新制度は、2026年9月17日時点で開始が決まっていないことです。

報道によると、文部科学省は、新制度開始後に採用された教員について、勤務年数に応じて大学在学中の奨学金を全額または一部免除する方向で検討しています。

一方、文部科学省が2026年5月に公表した資料では、学部段階の奨学金返還支援については「引き続き検討」とされていました。報道された新制度について、対象となる奨学金や具体的な勤務年数、免除割合などを示した正式な制度案は、現時点では確認できません。

2026年9月17日時点で報じられている内容

・新制度開始後に採用された教員を対象とする方向

・勤務年数に応じて全額または一部を免除する方向

・制度導入前から勤務している教員を含めるかは今後検討

・早ければ2027年の通常国会への法案提出を目指すと報じられている

新制度では大学時代の奨学金まで対象を広げる方向

今回の検討で大きな変化となるのが、大学の学部段階で借りた奨学金を対象とする方向が示されていることです。

現在の国の教員向け返還免除制度では、学部時代に借りた奨学金は対象になっていません。今回の制度が実現すれば、教員を目指す人にとって対象となる奨学金の範囲が大きく広がることになります。

なお、日本学生支援機構では奨学金を返すことを「返済」ではなく「返還」と表記しています。一般には「教員の奨学金返済免除」と検索されることもありますが、この記事では制度上の表記に合わせて「返還免除」を使用します。

現在は大学院の第一種奨学金に教員向け免除制度がある

教員向けの奨学金返還免除制度は、すでに存在します。

現在は、大学院在籍中に日本学生支援機構の第一種奨学金の貸与を受け、一定の条件を満たして正規教員として採用された人について、その第一種奨学金を全額免除する制度があります。

日本学生支援機構の教員免除制度によると、対象となるのは大学院で第一種奨学金の貸与を受け、在学中に特に優れた業績を挙げたと認められた人です。さらに、教員採用選考に合格し、所定の時期に正規教員として在職するなどの要件があります。大学の学部在籍時に借りた奨学金は、この制度の免除対象にはなっていません。

現職教員が対象になるかなど詳細はまだ決まっていない

現在働いている教員も、新しい奨学金免除の対象になるのか気になるところです。

今回の報道では、新制度が始まる前から働いている教員を対象に含めるかどうかは、今後の検討事項とされています。

また、第一種奨学金と第二種奨学金のどこまで対象にするのか、勤務何年でどれだけ免除するのか、途中で退職した場合はどう扱うのかといった具体的な条件も正式には示されていません。

制度を利用できる人の範囲は、今後公表される法案や制度設計を確認して判断することになります。

なぜ教員だけ?学部段階で約30年ぶりに制度復活を検討する背景

人手不足は学校だけで起きている問題ではありません。介護、建設、運輸など多くの分野で人材確保が課題になっています。

そのため、「なぜ教員だけ奨学金を免除するのか」という疑問が出てくるのは自然です。この論点を考えるには、以前にも教員向け返還免除制度が存在し、いったん廃止された経緯を見ると分かりやすくなります。

以前の返還免除制度はなぜ廃止されたのか

教育職向けの奨学金返還免除制度は、戦後の教員不足を背景に1953年度に小中学校の教員などを対象として始まりました。1961年度には高校、高等専門学校、大学などの教員も対象に加えられています。

旧制度では、15年以上勤務すると全額、5年以上勤務した場合は勤務期間に応じて一部が免除される仕組みでした。

ところが、その後は教員採用をめぐる状況が変化します。文部科学省の資料では、教員確保策としての意義が薄れたことに加え、特定の職業だけ返還を免除することへの公平性なども制度見直しの理由として挙げられています。大学段階では1998年度入学者から教育職による返還免除が廃止されました。

約30年前には「教員を確保するために特別な免除制度を設ける必要性が低くなった」と判断された制度が、再び検討されるほど教員の採用環境が変化したということです。

教員採用倍率は2.9倍まで低下した

現在の状況を示す数字の一つが、公立学校教員の採用倍率です。

文部科学省によると、2025年度採用の公立学校教員採用選考では、全学校種を合わせた受験者数が10万9,123人、採用倍率は2.9倍となり、いずれも過去最低でした。

さらに、文部科学省の「教師不足」に関する実態調査では、2025年5月1日時点で公立の小中高校・特別支援学校に3,827人の教師不足が生じています。2021年度の同じ時点では2,065人だったため、不足数は増加しました。

ここでいう教師不足とは、教育委員会が学校に配置するとしていた人数を実際の教師数が下回っている状態です。法律などに基づいて算定される標準的な教職員定数に対して、全国で3,827人不足しているという意味ではありません。

教員不足の原因は人口減少だけではない

日本の人口が減っているのだから、働く人が減り、教員も不足しているのではないか。人口減少は、教員不足に関わる要因の一つです。

一方、文部科学省の2026年の分析を見ると、現在の教師不足は人口減少だけで説明できる状況ではありません。

子どもが減っても教師の需要が同じ割合で減るとは限らない

文部科学省は教師需要を増やしている要因として、特別支援学級の増加や、教育環境の変化に合わせた指導体制の充実などを挙げています。

実際、特別支援学級の在籍者数は2015年度の20万1,493人から2025年度には41万9,700人へ増えました。10年間で2倍を超えています。

加えて、教員の年齢構成を背景に大量の定年退職が発生し、それに対応して若い正規教員の採用が増えました。若手教員が増えれば、産休や育休を取得する教員も増え、その期間を補う教師が必要になります。

子どもの総数が減っていても、学校現場で必要になる教師の数が同じ割合で減るとは限らないというのが、現在の教師不足を理解するポイントです。

正規採用の拡大で臨時講師の候補者が減っている

もう一つの要因が、欠員を補う臨時講師の候補者が減っていることです。

大量退職に対応して正規教員の採用を増やした結果、以前なら採用試験に再挑戦しながら臨時講師として働いていた人が正規教員として採用されるようになりました。

文部科学省の資料では、公立学校教員採用試験の既卒受験者は2015年度から2025年度までに47.1%減少しました。

正規採用が進むこと自体は採用された人にとって大きな変化ですが、その一方で、病気休職や産休・育休などで急に欠員が出た際に臨時講師として働ける人材が少なくなるという構造があります。

地域によっては、民間企業との人材獲得競争によって教職以外へ進む人もいると文部科学省は分析しています。

勤務環境への不安も教職を選ばない理由になっている

若者そのものが減っていることだけを原因と考えると、もう一つ説明できない数字があります。

大学卒業者数は2014年度の56万4,035人から2024年度には58万4,304人へ増えています。一方、大学で教員免許状を取得した人は同じ期間に7万2,825人から6万5,904人へ減少しました。

また、文部科学省が2026年の教師不足資料でも引用している2022年公表の学生調査では、過去に学校の先生になりたいと考えた学生に、教職科目を履修しなかった理由を尋ねています。「民間企業等、教職以外の職業への志望度合いの方が高かった」が55.9%、「学校関係者から得た情報で職場環境や勤務実態に不安を持った」が21.8%、「報道で得た情報で職場環境や勤務実態に不安を持った」が21.2%でした。

この調査は2022年公表のもので、2026年の学生全体をそのまま表す数字ではありません。それでも文部科学省自身が現在の教師不足を分析する資料として引用しており、教職を選ぶかどうかには勤務環境も関係していることが分かります。

人口減少、教師需要の変化、臨時講師の減少、民間企業との競争、勤務環境への不安が重なっているのが現在の状況です。

他の人手不足職種と比べても教員だけが優遇されるのか

「人手不足なら、介護やほかの仕事にも同じような支援が必要なのではないか」という疑問もあります。

ここで確認しておきたいのは、一定期間その仕事を続けることを条件に、修学に使った資金の返還を免除する仕組み自体は教員だけに存在するものではないという点です。

介護にも勤務を条件とした返還免除制度がある

代表例が介護福祉士です。

厚生労働省の介護福祉士修学資金貸付制度では、介護福祉士養成施設に通う学生に無利子で修学資金を貸し付け、卒業後に介護福祉士として5年間勤務すると返済が全額免除されます。

社会福祉士にも、一定期間相談援助業務に従事した場合の返還免除制度があります。

ただ、これは日本学生支援機構の一般的な第一種・第二種奨学金を後から免除する制度とは仕組みが違います。介護人材を確保する目的で設けられた専用の修学資金です。

11自治体はすでに教員向け返還支援を実施

国の新制度を待たず、大学卒業後に教員になった人を対象として奨学金返還を支援する自治体もあります。

文部科学省が2026年5月時点で把握している範囲では、東京都、千葉県・千葉市、山梨県、岐阜県、京都府、岡山県、愛媛県、川崎市、北九州市、福岡市など11自治体で学部段階の独自支援が実施されています。

支援内容は自治体によって異なります。たとえば東京都では、対象となる教員について一定期間にわたり奨学金残額の一部を代理返還する制度を設けています。自治体によって対象校種、金額、勤務期間、途中離職時の扱いも違います。

こうした自治体の制度によって実際に教員志願者や定着率がどの程度変わったのかは、国が制度を広げる効果を考えるうえで重要な材料になります。

公平性を考えるなら制度の違いまで見る必要がある

約30年前に教育職向けの返還免除制度が廃止された際にも、特定の職業だけを優遇することへの公平性が論点になりました。今回の制度を考えるうえでも同じ問いが出てきます。

一方で、現在は介護など別の人手不足分野にも、その職業への就職や一定期間の勤務を条件とした修学資金制度があります。また、企業や自治体が奨学金返還を支援する仕組みも広がっています。

そのため、「教員だけ支援され、ほかの職業には支援がない」という比較では実態を捉えきれません。

今回の論点は、一般の大学生も利用する日本学生支援機構の奨学金について、国が教員として働くことを条件に返還免除を広げることで、どの程度の政策効果が得られるのかという点にあります。

奨学金免除で教員不足はどこまで改善するのか

今回報じられた教員の奨学金免除は、質の高い教員のなり手確保や、教員不足の解消につなげる狙いがあるとされています。

一方、ここまで見てきた教師不足の原因には、奨学金だけでは直接変わらない要素も多く含まれています。

奨学金免除は教員を目指す入口への支援

大学時代に数百万円の貸与型奨学金を利用している人にとって、教員として一定期間勤務すれば返還額が減る制度は、進路を考える際の経済的な条件を変えます。

特に、教員と民間企業のどちらへ進むか迷っている学生にとっては、教職を選ぶ理由の一つになることが考えられます。

その一方で、文部科学省が教師不足の原因として挙げている長時間勤務や臨時講師不足、産休・育休の代替確保といった問題は、奨学金免除とは別の対策が関わる分野です。

教員になる人を増やす「入口」の政策と、教員が働き続けられる環境を整える政策は、分けて効果を見る必要があります。

制度の効果は志願者数だけでは測れない

奨学金返還免除が導入された後に確認したいのは、教員採用試験の受験者が増えたかどうかだけではありません。

制度の効果を見るための主なポイント

  • 教員採用試験の受験者数が増えたか
  • 教員免許を取得する学生が増えたか
  • これまで教職以外へ進んでいた学生が教員を選ぶようになったか
  • 採用後に一定期間働き続ける人が増えたか
  • 教師不足の人数や不足率が改善したか
  • 制度にかかる公費に見合う人材確保効果が得られたか

文部科学省の審議でも、大学院向け返還免除制度や自治体独自の取組について成果を検証し、学部段階へ広げた場合に期待される効果を分析する必要性が指摘されています。

制度を評価する際には、「奨学金を免除した人数」より、その後の教師確保や定着がどう変化したのかを見るほうが、政策目的との関係を確認しやすくなります。

今後の焦点は対象・勤務年数・予算

今回報じられた教員の奨学金免除は、制度設計によって対象者へのメリットも国の負担も大きく変わります。

今後、明らかになる制度の詳細で重要なのは次の点です。

今後の焦点

  • 第一種・第二種のどの奨学金を対象にするのか
  • 何年間勤務すると何割免除されるのか
  • 制度開始前から働く現職教員を対象に含めるのか
  • 途中で退職した場合に免除額をどう扱うのか
  • 制度開始時期と必要な予算はいくらになるのか

教員不足には人口動態だけでなく、教師の年齢構成、特別支援学級の増加、臨時講師の減少、民間企業との人材獲得競争、勤務環境など複数の要因があります。

奨学金免除は、そのすべてを解決する制度ではありません。「なぜ教員なのか」「税金を使うだけの効果があるのか」を考えるうえでは、制度が教員不足のどの原因を対象としているのかが焦点です。今後公表される制度案では、対象者や免除条件とあわせて、どの課題の改善を想定しているのかも注目されます。