また関税チラ見せ?ウォール街が読み解くトランプ流かけひき
英フィナンシャル・タイムズのコラムで誕生したTACO理論「Trump Always Chickens Out(または Chicken Out と表記される場合も/トランプはいつもチキって退く)」がウォール街で急拡散し、当のトランプ大統領(78)が記者会見で激怒した、というニュースが話題になっています。FTのロバート・アームストロング記者が、関税強硬策を掲げつつ市場が揺らぐと撤回する大統領の癖を揶揄したのが発端。実際、米政権はEUに50%関税を課すと宣言した2日後に発動を7月9日へ延期し、株価は反発しました。投資家は「またTACOだ」と冷静に受け止め、取引戦略にまで昇華させています。
- 市場はブラフの耐性を身に付けた?
- ゆるっと雑感メモ
- TACOをもっと味わう3つのトッピング
- TACO理論って結局なに?
- 関税と株価のしくみをざっくり
- 市場が慣れていく理由

市場はブラフの耐性を身に付けた?
ゆるっと雑感メモ
関税カードを高く掲げてから「やっぱり様子見で」と下ろす――この一連の動き、最初はジェットコースター並みのスリルでしたが、ここ数年で投資家の方が慣れてしまった印象です。「またTACO来たね」「小腹が空いた」くらいの軽いノリ。市場が織り込み済みになると、発言だけではボラティリティが持続せず、結果的に"撤回込み"で値動きを狙う短期勢の餌に。大統領としては駆け引きのつもりでも、頻度が増すほど狼少年化するジレンマがあります。
ここで面白いのは、「怒った」というニュース自体が投資家に追加ヒントを与えている点。強がりか本気かを測る、いわば"感情指数"として機能し始めています。SNS時代のマーケットは、政策よりも表情・語気・タイムスタンプをデータポイントに変換してしまう。交渉術のつもりが、逆に価格発見のエンジンを強化しているのだから皮肉です。
とはいえ、一度でも本当に実行されれば痛みは大きい。投資アイデアとしてTACOを使うなら、「最後は撤回するだろう」という思い込みリスクを忘れずに。のんびり派の私は、スパイシーなタコスより胃に優しいブリトー戦略(分散投資)を選びつつ、交渉劇を遠巻きに眺めています。
TACOをもっと味わう3つのトッピング
TACO理論って結局なに?
TACOはFT記者の造語で、トランプ氏が市場の反発や政財界の圧力を感じると「素早くチキって(おじけづいて)後退する」習性を指します。2018年の鉄鋼・アルミ関税でも複数国への一時的な除外措置を連続して発表した経緯があり、市場では音量だけ大きい交渉術という半ばジョーク混じりのラベルが定着しました。
アルファベットをおいしそうなメキシコ料理に当て込むセンスも相まって、ウォール街のスラングとして広がり、SNSでは「#TACOTuesday」ならぬ「#TACOTariff」がハッシュタグ化。金融マンのシャレでもあり、実戦的な逆張りシグナルとしても語られます。
重要なのは、あくまで過去のパターンをまとめた俗説にすぎない点。関税撤回が続いたからといって未来も同じとは限らず、理論というより経験則に近いと理解しておくと安心です。
関税と株価のしくみをざっくり
関税は輸入品に追加コストを上乗せする仕組みで、企業収益や物価に直結します。たとえばEU製自動車に50%の関税を課せば、米国での販売価格が跳ね上がり、消費が冷え込む恐れがあるため株式市場はネガティブに反応します。
ところが「やっぱり延期」や「一部除外」と発表されると、追加コスト懸念が薄れるので株価がリバウンド。この"発表→動揺→撤回→反発"の往復が短期間に繰り返されるほど、敏感な短期筋には好機、長期投資家にはノイズになりやすいのです。
加えて、為替相場もリスクオン・オフで動き、市場全体の連鎖が複雑化します。だからこそ、ヘッドラインを鵜呑みにせず、最終的な実施確率や企業の価格転嫁力を冷静に見極める力が必要になります。
市場が慣れていく理由
投資家は一度経験したショックを記憶します。同じタイプのニュースが続くと「また来たか」で動揺が小さくなる現象を"慣性"や"スタミナ"と呼ぶことがあります。ミル・ストリート・リサーチによれば、ウォール街の関税見出しへのリアクションは年々穏やかになってきたとの分析も。
背景には、アルゴリズム取引の発達でヘッドライン解析が高速化し、撤回パターンを織り込むモデルが増えたこと、そして企業側がサプライチェーンを多角化して"最悪シナリオ"への備えを進めたことが挙げられます。
もっとも、慣れは油断とも背中合わせ。予期せぬ決定が実行されると、一気に想定外が跳ね返ってくる可能性があるため、リスク管理の基本――分散と資金管理――は忘れないようにしたいですね。