ファーウェイの研究開発費はなぜ巨額なのか?売上高の2割を投じる理由と日本企業との違い
中国の通信機器大手ファーウェイは、ヨーロッパの街並みを再現した巨大な研究開発拠点を持ち、約3万人の研究開発者が働いています。2025年の研究開発費は1,923億元、日本円で約4兆4,000億円に達し、売上高の21.8%を占めました。なぜファーウェイは、これほど巨額の資金を研究開発に投入できるのでしょうか。米国の輸出規制を受けながらも投資を続けられる理由を事業構造や資金、人材戦略から調べるとともに、日本企業の研究開発費や技術者の待遇も取り上げ、両者の違いを考えます。
- ファーウェイは研究開発にどれほど投資しているのか
- 研究開発費1,923億元、売上高の21.8%を投入
- 従業員の半数以上、11万4000人が研究開発に従事
- なぜファーウェイは巨額の研究開発投資を続けられるのか
- 通信インフラからAI・自動車まで広がる事業基盤
- 米国の輸出規制と独自技術への投資
- ファーウェイは優秀な技術者をどう集めているのか
- 松山湖キャンパスに3万人が集まる研究環境
- 給与・福利厚生・社員持株制度から見る人材戦略
- 日本企業は研究開発にどれほど投資しているのか
- ファーウェイと日本の主要企業の研究開発費を比較
- 日本の技術者の待遇と研究開発環境にはどんな課題があるのか
- 筆者の考察:日本企業はファーウェイの何を学ぶべきか

ファーウェイは研究開発にどれほど投資しているのか
研究開発費1,923億元、売上高の21.8%を投入
ファーウェイが2026年3月31日に公表した「2025年年次報告書」によると、2025年の売上高は8,809億元、純利益は680億元でした。研究開発費は1,923億元(1元=約23円で換算すると約4兆4,000億円)に達し、売上高の21.8%を占めています。
技術者の人件費や研究設備、試作品の開発、実験などに巨額の資金が投入されています。ファーウェイは通信設備や半導体、ソフトウェアなど幅広い分野で技術開発を進めており、それらを合わせた年間研究開発費は、日本の大手製造業と比較しても際立った規模です。
研究開発費は2024年の1,797億元から2025年には126億元増加し、売上高に占める割合も20.8%から21.8%へ上昇しました。さらに、過去10年間の研究開発投資は累計1兆3,820億元を超え、日本円で約31兆8,000億円に相当します。
半導体や通信技術の開発では、基礎研究から試作品の製作、性能の検証を経て製品化へ進むまでに長い時間がかかることがあります。研究の途中で新たな課題が見つかれば設計や実験をやり直す必要もあり、ファーウェイはこうした技術開発に必要な資金を長期間にわたって投入してきました。
ファーウェイの研究開発投資(2025年)
| 売上高 | 8,809億元(約20兆2,600億円) |
| 純利益 | 680億元(約1兆5,600億円) |
| 研究開発費 | 1,923億元(約4兆4,200億円) |
| 売上高に占める割合 | 21.8% |
| 過去10年間の累計 | 1兆3,820億元超(約31兆8,000億円超) |
※日本円は1元=約23円で換算した概算額。
従業員の半数以上、11万4000人が研究開発に従事
研究開発費と並んで規模の大きさを示しているのが、研究開発に携わる従業員の数です。2025年末時点でファーウェイには約21万3,000人の従業員がおり、そのうち約11万4,000人、全体の53.7%が研究開発に従事しています。
社員の2人に1人以上が新しい技術や製品、サービスの開発に関わっており、研究対象は携帯電話の基地局などの通信機器から半導体、AI、クラウド、スマートフォン、自動車向けシステムまで広がっています。異なる技術分野を持つ研究者がそれぞれの専門性を生かし、新しい製品やシステムの開発を支えているのです。
こうした研究開発の成果は、特許としても蓄積されています。ファーウェイが2025年末時点で世界に保有する有効な登録特許は約16万5,000件で、自社製品への活用に加え、他社への技術ライセンスにも利用されています。
11万人を超える研究開発組織を維持するには、人件費に加えて研究設備の更新や新しい技術者の採用、教育、研究テーマごとの予算配分なども必要です。全従業員の半数以上を研究開発に配置しているという組織構造が、ファーウェイの巨額な研究開発費につながっています。
なぜファーウェイは巨額の研究開発投資を続けられるのか
通信インフラからAI・自動車まで広がる事業基盤
ファーウェイが毎年巨額の研究開発費を投入できる背景には、通信機器からスマートフォン、電力設備、自動車関連システムまで幅広い事業を展開し、年間8,000億元を超える売上高を確保していることがあります。日本ではスマートウォッチやイヤホンのメーカーという印象が強いかもしれませんが、同社で売上高が最も大きいのは、携帯電話の基地局や企業向けネットワーク設備などを扱うICTインフラ事業です。
ICTインフラとは、インターネットや通信ネットワーク、企業のコンピューターシステムなどを動かす設備や仕組みのことで、ファーウェイは通信事業者向けの基地局から企業向けのサーバー、データを保存するストレージまで幅広く提供しています。2025年のICTインフラ事業の売上高は3,750億元に達し、全体の約43%を占めました。
2025年の事業別売上高を見ると、スマートフォンやタブレットなどのコンシューマー事業も3,445億元を売り上げており、ICTインフラと並ぶ大きな事業基盤になっています。
| 事業 | 売上高(日本円換算) | 前年比 |
| ICTインフラ | 3,750億元(約8兆6,300億円) | +2.6% |
| コンシューマー | 3,445億元(約7兆9,200億円) | +1.6% |
| デジタルパワー | 773億元(約1兆7,800億円) | +12.7% |
| スマートカーソリューション | 450億元(約1兆400億円) | +72.1% |
| クラウド | 322億元(約7,400億円) | −3.5% |
※日本円は1元=約23円で換算した概算額。2025年の年次報告書に記載された事業別売上高を億元単位に四捨五入。構成変更に伴い、前年比の比較数値も調整されています。
成長率で目立つのは、自動車メーカー向けに運転支援システムや車内の情報表示、通信、ソフトウェアなどを供給するスマートカーソリューション事業です。2025年の売上高は前年比72.1%増の450億元に達し、ファーウェイは自動車そのものを製造するメーカーとは異なる立場から、自動車産業へ事業を広げています。
こうした幅広い事業展開には、研究開発で培った技術を複数の分野で活用できる利点があります。例えば、携帯電話の基地局で使われる通信技術は工場や鉱山などの遠隔操作にも応用でき、半導体やソフトウェアの技術はAI計算システム、スマートフォン、自動車向けシステムにも利用できます。ある分野で開発した技術を別の製品やサービスにも展開できれば、研究開発の成果を事業に結び付ける機会が増えるわけです。
では、ファーウェイは実際に研究開発を続けるだけの資金を確保できているのでしょうか。2025年の営業活動によるキャッシュフローは、前年の884億元から1,274億元へ増加しました。営業活動によるキャッシュフローとは、本業などの営業活動を通じた現金の出入りを示すもので、年末時点の現金および短期投資も3,614億元に達しています。
2025年の純利益680億元に対して研究開発費は1,923億元と大きく上回っていますが、研究開発費はすでに利益の計算に反映された費用です。ファーウェイは製品やサービスの販売から得られる収入で事業を運営しながら研究開発にも資金を配分しており、年間8,809億元の売上高と3,600億元を超える現金・短期投資を保有する財務基盤が、長期的な技術開発を支えています。
米国の輸出規制と独自技術への投資
ファーウェイが独自技術の開発へ力を入れている背景には、米国による輸出規制があります。2019年5月、米国商務省はファーウェイと関連企業を輸出管理上の「エンティティー・リスト」に追加し、米国の輸出管理規則の対象となる技術や製品を供給する場合、原則として米政府の許可を必要とする措置を導入しました。
2020年には米国の技術やソフトウェアを使って海外で製造した一部の半導体についても規制が強化され、ファーウェイは海外企業からの半導体調達に大きな制約を受けることになります。米国商務省産業安全保障局(BIS)の公表資料には、2019年の規制対象への追加と2020年の規制強化の経緯が記録されています。
輸出規制の影響が表れた事業の一つがスマートフォンです。新しい機種にGoogleのアプリやサービスを搭載することが難しくなり、海外市場での販売環境が変化したため、ファーウェイは半導体の調達とともに、スマートフォンを動かすソフトウェアについても自社の技術基盤を整える必要に迫られました。
その取り組みの一つが、2019年に発表した独自OS「HarmonyOS(鴻蒙)」です。OSとはスマートフォンやパソコンなどを動かす基本ソフトのことで、ファーウェイはHarmonyOSの対象をスマートフォンからタブレット、ウェアラブル機器、パソコン、自動車向けシステムへと広げてきました。
独自OSを普及させるには、基本ソフトを開発するだけでなく、アプリを動かす仕組みや対応する開発者の確保、機器同士を連携させる技術なども必要です。例えばスマートフォンで利用しているアプリを新しいOSでも使えるようにするには、アプリの開発企業にも対応してもらう必要があり、OSを中心とした技術基盤の整備には継続的な投資が求められます。
半導体分野でも独自技術の開発を進めており、AI計算向けの「Ascend(昇騰)」やサーバー向けの「Kunpeng(鯤鵬)」などのプロセッサーを展開しています。AIの学習や回答生成には大量の計算が必要になるため、ファーウェイは半導体の設計から、それらを組み合わせたサーバー、計算処理を動かすソフトウェアまで幅広く開発しています。
こうした技術開発は、通信設備やスマートフォンだけでなく、クラウドサービスや企業向けAIシステムなどの事業にも関係しています。半導体やOSを独自に開発することで、海外企業の技術を利用しにくくなった環境でも、自社製品の開発を進めるための選択肢を増やしているのです。
ここで気になるのが、ファーウェイと中国政府の関係でしょう。同社は、従業員と退職した受益者が所有する非上場の民間企業と説明しており、2025年末時点の持株制度の参加者は16万9,054人、創業者の出資比率は約0.59%です。
中国では半導体やAIなどが国家の産業政策でも重視されており、ファーウェイも政府から補助金を受けています。同社の「2025年年次報告書(pdf)」によると、2025年に計上した政府補助金は39億元(約897億円)で、主に研究開発プロジェクトに関連するものです。ファーウェイは政府の支援も受けながら、通信、AI、半導体などの技術開発に継続して資金を投入しています。
ファーウェイにとって独自の半導体やOSの開発は、輸出規制に対応しながら現在の事業を維持するとともに、AIや自動車など将来の成長分野へ進出するための投資でもあります。幅広い事業で技術を活用できる経営構造に、海外技術への依存を減らす必要性が重なっていることが、巨額の研究開発投資を続ける理由の一つと考えられます。
ファーウェイは優秀な技術者をどう集めているのか
松山湖キャンパスに3万人が集まる研究環境
中国広東省東莞市にあるファーウェイの松山湖キャンパスは、約130万平方メートル、東京ドーム約28個分に相当する敷地を持つ研究開発拠点です。12のエリアに分かれた施設には約3万人の研究開発者が働いており、パリやハイデルベルクなどヨーロッパの街並みを参考にした建物が並び、敷地内を列車が走る独特の環境になっています。
外観はヨーロッパの街を再現したテーマパークのようですが、内部では通信機器や電子機器などの研究開発が行われています。例えばオーディオの研究所では、外部の音を遮断した無響室を使ってイヤホンの音質や通話品質を測定しており、地下鉄や航空機内の騒音を再現した試験では、ロボットアームでイヤホンの装着位置を一定に保ち、測定結果にばらつきが生じるのを防いでいます。
研究者にとって、開発した製品をすぐに試験し、問題点を修正できる設備があることは、日々の研究を進めるうえで大きな利点です。松山湖には実験施設に加えて図書館や飲食店なども整備されており、異なる技術分野の研究者が同じ拠点で働く環境は、製品開発に必要な情報交換や共同作業にも利用できます。
ファーウェイはヨーロッパ風の街並みにした理由について、さまざまな国籍の従業員が働くことを考慮し、海外出身者が故郷を思い出せる環境を目指したと説明しています。研究施設としての機能に加え、働く場所そのものにも資金を投入している点が特徴で、研究者が勤務先を選ぶ際に関係する設備や職場環境を、大規模な施設として整えた事例といえます。
給与・福利厚生・社員持株制度から見る人材戦略
高度な技術を持つ研究者を集め、長期間にわたって働いてもらうためには、研究設備に加えて給与や福利厚生などの待遇も関係します。ファーウェイは、担当する職務や個人の貢献、会社の業績、市場の報酬水準などを考慮する報酬制度を採用しており、社員が会社の経営成果から経済的な利益を受け取れる持株制度も設けています。
福利厚生については、2025年に209億9,000万元を投入したと公表しており、社会保険や企業が提供する保険、医療支援、健康診断、健康相談などが対象です。高度な専門知識を持つ研究者の育成には長い時間がかかるため、企業が経験豊富な人材に働き続けてもらうことは、研究活動で蓄積された技術やノウハウを維持することにも関係しています。
また、ファーウェイの社員持株制度では、制度の条件に応じて社員が持分を保有し、配当などを通じて企業の経営成果を受け取ることができます。会社が成長して利益を生み出すことと、社員自身の経済的な利益が結び付く仕組みであり、給与とは別に長期的な企業業績を意識する制度になっています。
世界各地で事業を展開するファーウェイでは、国籍や専門分野の異なる人材を採用することも研究開発組織を支える要素です。同社は世界166の国・地域の出身者が働いていると公表しており、通信からAI、自動車まで多様な技術分野を扱うなかで、さまざまな経験や専門知識を持つ人材を集めています。
日本企業は研究開発にどれほど投資しているのか
ファーウェイと日本の主要企業の研究開発費を比較
ファーウェイの研究開発費は、日本企業と比較するとどれほど大きいのでしょうか。日本を代表する製造業の一つであるトヨタ自動車の2026年3月期の研究開発活動関連支出額は約1兆5,228億円で、ファーウェイの2025年の研究開発費を1元=約23円で換算した約4兆4,200億円と比べると、金額には約2.9倍の差があります。トヨタの数値は研究開発活動に関連する支出額で、連結損益計算書の研究開発費とは集計方法が異なります。
もっとも、ファーウェイは通信機器や半導体、ソフトウェアなどを中心とする企業であり、トヨタは自動車の開発と製造を主力としています。研究開発に必要な設備や人員、開発期間は事業内容によって異なるため、企業が研究開発へどれほど資金を振り向けているかを比較するには、売上高に占める研究開発費の割合も参考になります。
日本の産業別の状況については、文部科学省科学技術・学術政策研究所(NISTEP)が公表している「科学技術指標2025」で確認できます。2023年度の売上高に占める研究開発費の割合は、医薬品製造業が8.7%、情報通信機械器具製造業が5.8%、輸送用機械器具製造業が4.7%となっています。
| 企業・産業 | 売上高に占める研究開発費 |
| ファーウェイ(2025年) | 21.8% |
| 日本の医薬品製造業(2023年度) | 8.7% |
| 日本の情報通信機械器具製造業(2023年度) | 5.8% |
| 日本の業務用機械器具製造業(2023年度) | 4.9% |
| 日本の輸送用機械器具製造業(2023年度) | 4.7% |
出典:ファーウェイ2025年年次報告書、NISTEP「科学技術指標2025」。日本の数値は研究開発を実施していない企業も含む産業別平均です。
日本の産業別平均で最も割合が高い医薬品製造業は、新薬の研究から臨床試験、承認を経て製品化するまでに長い期間と多額の資金を必要とする分野です。通信機器や電子機器を扱う情報通信機械器具製造業は5.8%で、ファーウェイの21.8%とは大きな開きがありますが、ここではファーウェイという個別企業と、日本の産業全体の平均値を比較しています。
NISTEP「科学技術指標2026」によると、日本の企業部門の研究開発費は2024年度に17.4兆円となりました。その約9割を製造業が占め、自動車や電子機器、医薬品などが研究開発を支える主要な分野になっています。
日本では自動車をはじめとする製造業に研究開発投資が集中しているのに対し、ファーウェイは通信、AI、半導体、ソフトウェアなどを複数の事業で利用する技術基盤へ大きく資金を配分しています。研究開発費の金額や売上高比率に加えて、どの技術分野に投資し、その成果をどのような事業へ展開しているかにも違いがあります。
日本の技術者の待遇と研究開発環境にはどんな課題があるのか
研究開発費の規模とともに考えたいのが、その資金を使って技術を生み出す研究者や技術者の働く環境です。日本には多くの研究人材が存在しており、NISTEPによると、2024年の研究者数は、研究に費やした時間を常勤の研究者の人数に換算すると約70万1,000人で、中国、米国に次ぐ規模となっています。そのうち約7割が企業部門で働き、製品開発や技術革新を支えています。
高度な専門人材の採用状況を見ると、2023年度に日本の製造業が新規採用した研究者のうち、博士号保持者は726人で全体の3.5%、非製造業では440人で8.0%でした。博士号は特定の専門分野で高度な研究を行った経験を示す資格であり、企業が基礎研究や新しい技術の開発を進める際には、大学や研究機関で専門的な知識と研究経験を身に付けた人材を活用する方法があります。
研究者の待遇については、給与や福利厚生に加えて、専門性がどのように評価されるのか、研究に使える時間や設備、予算がどれほど確保されるのかも関係します。企業の研究開発部門では、研究成果が製品化に結び付くまで長い時間を要することがあり、短期的な売上や利益だけでは技術者の貢献を評価しにくいのです。
例えば、新しい半導体材料を研究する技術者が、製品化まで数年かかるテーマに取り組んでいる場合、研究途中では売上への貢献が数字に表れなくても、その過程で得られた実験結果や特許、設計上の知識が後の製品開発に役立つことがあります。企業がこうした成果をどのように評価するかによって、技術者が研究を続ける環境やキャリアにも違いが生まれます。
また、大学で高度な専門知識を身に付けた人材が企業へ移り、その知識を製品やサービスの開発に生かすためには、大学と企業の共同研究や博士人材の採用、研究成果を事業へ移す仕組みなども関係します。研究者が大学で取り組んできたテーマと企業の開発課題が結び付けば、それまでに蓄積した知識や経験を事業のなかで活用する機会も広がります。
ファーウェイと日本企業の人材戦略を比較する場合には、給与水準に加えて、技術者が研究テーマを選べる範囲、専門職としてのキャリア、設備や予算の利用条件、研究成果に対する評価なども検討する必要があります。研究開発費をどれほど確保するかという経営判断は、技術者がその資金を使ってどのような仕事をできるかという職場環境にも関係してくるからです。
筆者の考察:日本企業はファーウェイの何を学ぶべきか
ファーウェイの研究開発投資を調べて、最も考えさせられたのは、企業が技術開発を経営戦略のどこに位置付けているかという問題です。私は、日本企業が参考にすべきなのは、年間4兆円を超える投資額そのものよりも、将来の競争力を支える技術を見定め、長期間にわたって研究開発へ資金を投入し続ける経営姿勢だと考えます。
企業の経営者にとって、研究開発は成果を予測することが難しい投資の一つです。新しい工場を建設する設備投資であれば、生産能力がどれほど増えるかを計算できますが、研究開発では予算を投入しても技術が完成する時期や売上への貢献を事前に予測することが難しく、数年間取り組んだ結果、当初の目標とは異なる成果が生まれることもあります。
企業が短期的な利益を優先すれば、業績の悪化に合わせて研究開発予算を削減するという選択も考えられます。経費を抑えることで当面の収益を改善できても、将来必要になる技術や製品の開発が遅れれば、数年後の競争力に影響する可能性があります。だからこそ経営者には、自社がどの技術分野で強みを築き、何年間の投資を続けるのかを明確にしたうえで、研究開発予算を配分する判断が求められるのでしょう。
技術者の給与や評価を問題視する声については、専門性を高めることが報酬やキャリアの向上に結び付く仕組みを充実させるべきだと考えます。
例えば、優秀な技術者が高い報酬を得るために管理職へ進む道しか用意されていなければ、研究開発の現場で専門性を磨き続けたい人も管理業務を選ぶことになりかねません。研究職や技術職のまま経営幹部に近い待遇を得られる制度があれば、企業は高度な技術を持つ人材を研究開発の現場に残し、その能力を長期間にわたって生かせるでしょう。
ファーウェイの巨大な研究拠点については、豪華な施設にそれほど費用をかける必要があるのかという疑問も生まれます。研究者が働く場所を快適に整えることには意味がありますが、日本企業が参考にするなら、建物の外観よりも研究設備の充実や共同作業のしやすさ、技術者が研究に集中できる環境に資金を振り向けることを優先したいところです。
また、大学で高度な研究を経験した人材が企業で専門性を生かせる機会を増やすことも、技術開発を支える取り組みになるはずです。博士号を持つ研究者が基礎研究から製品開発まで幅広い仕事に参加できる環境があれば、企業は大学や研究機関で蓄積された知識を新しい技術や事業へ結び付ける機会を広げられます。
そのためには、経営者が中長期の研究開発計画を明確にし、技術者の専門性を評価する制度を整えるとともに、研究部門と事業部門が開発の初期段階から協力できる仕組みをつくることが必要です。研究者が生み出した成果を事業部門が理解し、製品やサービスへの活用を検討できる環境があれば、研究に投じた資金が将来の収益へ結び付く機会も増えるでしょう。
ファーウェイが巨額の研究開発投資を続けられる背景には、幅広い事業から生まれる売上と資金、独自技術を確保する必要性、そして長期的な技術開発を支える経営方針があります。日本企業も自社の事業規模や強みに合わせて研究開発の重点分野を定め、技術者が専門性を発揮できる環境へ継続して投資することが、将来の競争力を高める道になると考えます。
